MITホールディングスは、IT系に強いSBI証券を主幹事会社として、2020/11/25 にJASDAQ スタンダード市場に上場する、老舗ソフトウェア企業群の持ち株会社です。MITホールディングスの企業概要、現状分析、将来性についてみていきましょう。
会社概要・事業構成
MITホールディングスの事業は大きく二つの分野に分類されます。
システムインテグレーション(SI)サービス
顧客である企業の課題解決を行うためのソフトウェアやアプリを設計・開発から導入・運用保守までをワンストップで提供する事業です。同社のメイン事業であり、2018年度の売上高は3,470,770千円、総売上高の90.3%を占めています。
各種ソリューションサービス
「CADソリューションサービス」
高機能で汎用的な互換性を持つ二次元汎用CADソフトウェア「DynaCAD」シリーズを開発・販売し、地方公共団体の電子化に伴うコンサルティング、図面資料の電子化サービスなどを行っています。
「認証ソリューションサービス」
金融機関向けの本人確認や、原子力施設や医療機関のセキュリティ強化用に3D顔認証システムの販売や、生体認証機器のコンサルティング業務を行っています。
「デジタルマーケティングサービス」
グループ企業が開発した電子書籍制作・配信システム「Wisebook」を月額制のクラウドサービスや、オンプレミス方式によって提供しています。
その他のサービスとしては、操縦技術講習等を行う「ドローンソリューションサービス」や、小中学生を対象とした無料のプログラミング教室などを行っています。
以上のソリーションサービス関連で売上高374,416千円、総売上に対して9.7%の比率を計上しています。
現状分析
売上構成
システムインテグレータ企業として安定した業績を達成しいています。しかし、その内訳をみると、多くの部分が特定の大手SI企業向けで占められています。この事は、業績の安定に大きく寄与しています。
反面、システムインテグレーション分野の売上が90%以上で、得意先は大手3社で30%以上を占めているということは、特定分野に依存し過ぎているということが言えます。
ソリューション事業の整理・拡大
いくつかのソリューションを活溌していますが、メインの事業との関連性が乏しく、相乗効果が不明です。ソリューションビジネスでは、システムの利用料や保守料が売上になります。ユーザー数の積み上げにより、安定した収益源になり得ます。
最先端IT技術に対する取り組みの遅れ
IT業界においては、クラウドや、AI、IoT、RPA、ブロックチェーン技術などのフィンテック、デジタルトランスフォーメーション(DX)等のニーズが高まっていますが、同社は大手IT企業に対する派遣型開発や公共団体に対するシステムが多く、最先端のIT技術に関する実績に乏しいようです。
収益性の低い派遣、下請け構造
同社のソフトウェア開発業務は、開発業務自体を請け負う業務より、エンジニアを派遣して開発を行う比率が高く、利益率が低いことが課題となっています。
競合状況
独立系SI企業は、数多くの企業が存在します。そのため、多くのライバルが存在します。特に東証一部には以下のような企業が存在します。いずれも同社の10倍以上の売上がある企業群がひしめいています。東証一部には、立場的に、大企業や官公庁からSI関連の受注を直接受ける元請け企業が多く、同社とは少し立場が違うと言えます。将来に向けてのライバル企業という関係でしょう。
【独立系SI企業売上ランキング 2020年直近決算 ( )内は従業員数】
1位: SCSK 3,586.54億円 (12,365人)
2位: 日本ユニシス 2,990.29億円 (7,740人)
3位: トランスコスモス 2,846.96億円 (30,051人)
4位: 富士ソフト 2,043.29億円 (14,910人)
5位: IIJ 1924.30億円 (3,353人)
6位: 内田洋行 1643.86億円 (3,169人)
7位: 都築電気 1188.72億円 (2,336人)
8位: DTS 867.17億円 (4,369人)
9位: オービック 741.63億円 (2,058人)
10位: NSD 619.45億円 (3,428人)
【参考】独立系SIerランキング2020
今後の方向性と将来性
同社の取組むべき戦略は、次のようなものでしょう。
受注形態の改善による収益性の向上
派遣型のソフトウェア開発業務に関しては、高度な専門知識を持つ技術者を中心にすることで単価をアップし、請負型開発業務を増やすとともに、ユーザーからの直取引を増やして、収益性を向上する必要があります。
新規取引先の拡大による売上変動リスクの分散
最近のコロナウイルスのまん延や自然災害など、景気を下押しする要因は、いつ発生するかわかりません。そういった意味で、特定の受注先に頼らない、取引先の分散が必要です。日立社会情報サービス・富士通・NTTデータ・アイの三社で全体の30%の売上というのは、安定している反面、とても怖い状況です。
これまでの実績と信用力を活かして新規開拓に力を注ぐ必要があります。しかし、営業力を急に付けることは困難です。
また、現有のソリューションビジネスの営業力を強化する必要があります。その際、一律に強化しようとしても人的資源が追いつきません。市場の成長性、収益性を勘案して選択的に強化していく必要があるでしょう。
新技術の導入による需要の拡大
AI、IoT、RPA、フィンテック、デジタルトランスフォーメーション(DX)等、最先端のIT技術分野に関しては、市場が急拡大していきます。しかし、これらの分野では、未だ特定の企業が勝ち組と定まったわけではありません。そういった意味で、まだまだ収益源はあります。
それらの新技術分野を自社で研究開発することも重要です。しかし、それらの技術はとても速いスピードで進化しています。自社開発も重要ですが、それらに特化したスタートアップと手を組むことも重要です。M&Aが時間の節約になるでしょう。上場の資金需要はここにもありそうです。
イノベーションによる新たなビジネスモデルの開拓
さらに、新技術の取り込みの先には、デジタルトランスフォーメーション(DX)へのチャレンジも期待したいところです。大企業や官公庁向けSI事業は、「あるべき姿」が明確なシステムであり、仕様に従って堅実に仕事を進めて安定的な収益を確保してきましたが、それら既存の顧客にもビジネス上の悩みがあるはずです。その悩みに対して新たなビジネスモデルを提供できることが出来れば、大きな収益源になります。
まとめ
MITホールディングスは、SI事業を核に安定した収益を確保してきた優秀な企業ですが、これまで培った実績と信用力をテコに営業力を強化し、今後新技術を取り込んでいけば、さらに大きな飛躍が期待できる企業でしょう。反面、収益体質の改善、新技術の導入のスピードアップや、それを機にグループ内でイノベーションを起こしていけるかが、今後の成長の鍵となるでしょう。
【参考】MITホールディングス株式会社 新規上場申請のための有価証券報告書
https://www.jpx.co.jp/listing/stocks/new/nlsgeu0000051k34-att/11MITHoldings-1s.pdf
【参考】日経新聞 新規公開株の横顔)MITホールディングス システムやソフト開発